会長メッセージ

地下水学会誌57巻3号巻頭言

持続可能な社会へ向けての地下水ガバナンス

公益社団法人 日本地下水学会代表理事・会長

総合地球環境学研究所 副所長 谷口 真人

 

 平成27-28年度の公益社団法人日本地下水学会代表理事(会長)を仰せつかった総合地球環境学研究所の谷口真人です。会長就任の御挨拶を兼ねて、地下水に関する専門家集団である日本地下水学会が、何を目指し、どのように地下水と向かい合えばよいのか。地下水学と日本地下水学会の今後あり方について思いを述べたいと思います。

 地下水は、環境地盤の一部であるとともに重要な水資源であり、さらに栄養塩等の溶存物質の運搬者であると同時に、食文化や湧水文化に見られるように文化の重要な要素の一つでもあります。このような地下水の持つ多面的な側面を、学術的に明らかにし、社会と人々の暮らしの中でのより良い地下水の在り方を明らかにすることが、地下水学の根幹であることは言うまでもありません。その中で、地下水とは異なる水の存在形態である河川水の特性との違いをも踏まえ、温暖化などの気候変動や、都市化・過疎化・少子高齢化等の社会変動による影響および適応の違いや、地下水環境の多様な日本、アジア、グローバルとの関係や違いも明らかにしていく必要があります。持続可能な社会のための地下水管理の在り方を示していく責務を我々は負っていると考えています。幸い、公益社団法人日本地下水学会の構成員は、産官学とバランスがよく、市民も含めた様々な地下水のステークホルダーが一堂に会するアリーナとして、日本地下水学会が機能することが重要です。

 このように、地下水の持つ多面性とそのステークホルダーの多様性を踏まえて、公益社団法人日本地下水学会の代表理事・会長として、以下の3つのことを中心に据えて学会運営と地下水学の推進を行っていきたいと思います。

 一つ目は、公益社団法人の学会として、学会会員へのサービスのみならず、社会の中の地下水、社会のための地下水という視点からの学会活動です。科学のための科学や、技術のための技術だけではなく、社会のための科学・技術の重要性は、それらが社会から必要とされる根本であり、大前提といってもよいと思います。皆さんもご承知のように、昨年制定された水循環基本法と、それに基づく水循環基本計画の策定に向けた動きは、その社会のための地下水学が問われている良い例だと思います。これまでの縦割り行政を超えて、統合的に水資源を管理する理念法ができ、水の公共性等5つの理念に基づいて、法制度を含めた管理体制が構築されようとしています。公益社団法人日本地下水学会も、この水循環基本法の制定・施行を受けて、学会からの提言を出し(嶋田・谷口, 2014)、特集号を組んで(谷口,  2015など)、また地下水保全法の法案起草の準備を通して、社会が求める地下水管理の在り方を示してきました。地域依存性の強い地下水は、地下水をガバナンスする地域の自然と社会の特性を理解したうえで、地下水域を単位としたガバナンス体系の構築が必要です。そのためには、地下水環境の各種測定やモニタリングに加え、物理化学的また水文地質学的な地下水の可視化だけではなく、地下水管理制度や地下水マネジメント、ガバナンスの可視化も不可欠です。

 二つ目は、若手研究者・実務者・関係者のアリーナとしての学会活動の活性化と、地下水に近い隣接領域での活動の協働および拡大です。公益社団法人日本地下水学会としては、これまでも男女共同参画や若手支援に対する様々な活動を行ってきましたが、今後さらにこれらを拡充する必要があります。若い時期に、業種・個々の専門分野や学術界・産業界・行政界の枠を超えて、議論を戦わし協働作業を行うことができる日本地下水学会という場は、思考の柔軟な若い時期に貴重な時間を共有することができる大切なアリーナとなるはずです。学会としても若手の支援策の拡充を行っていきたいと考えています。また、地下水と対象領域の近い土壌や地盤、地下水が接する河川、大気や海洋など自然界での隣接領域だけではなく、経済や法制度など、地下水をガバナンスする上での隣接領域との協働がさらに必要になってくると考えています。

 三つ目は、国際的な地下水に関するプログラムや組織・機関との協働です。現在、日本地下水学会はInternational Association of Hydrogeology (IAH)の日本の受け入れ窓口として、事務局機能の一部を担っており、またアメリカのNational Association of Ground Water (NAGW)とは協定を結んで、お互いの連携を図っています。これらに加え、ユネスコのIHPプログラムや、持続可能な社会への国際研究プログラムであるFuture Earth (日本学術会議, 2014)等との協働など、アジアでの展開(谷口, 2011)も含めて、国際的な連携をますます進めていく必要があると思います。

 以上、社会の中の地下水、若手支援と隣接領域との協働、国際連携の三つを中心に、日本地下水学会が何を目指し、どのように地下水と向かい合えばよいかを述べました。今後の地下水問題は、世界的には地下水フットプリント(Gleeson et al., 2012)に見られるように、持続可能ではない現在の地下水利用をどのように持続可能な形に変えていくかという課題に加え、日本のように比較的地下水に恵まれている地域では、地下水を利用・ガバナンスできる技術・管理の可視化システムを構築し、水の少ない地域が多い世界へ貢献することが求められているといえます。東日本大震災をはじめとする災害時等で経験した地下水の有用性や、気候変動等に対して安定的供給が可能な地下水の優位性など、地下水の持つ特性解明の学術的進展と、社会における地下水の在り方に対する議論を進め、貴重で有用な地下水の利用と管理のガバナンスの仕組み作りを、学会として取り組んでいきたいと考えています。

 地下水は地域依存性の高い、流動する資源であり、これまでも地方自治体を含めて、様々な地下水管理に対する取り組みが行われてきました。これら各地域で培われてきた地域での地下水ガバナンスのネットワーク化が今後さらに必要です。そのために、それぞれの地域での市民活動や行政を含めた地域の人々との連携を進め、グローバルや国レベルでの地下水に関する様々な取り組みへの関与に加えて、地域レベルからのボトムアップによる地下水ガバナンスの体系化も、学会員の皆様とともに進めていきたいと考えています。

 

(参考文献)

 嶋田純・谷口真人(2014):水循環基本法に関する学会からの提言. 地下水学会誌、56巻3号、187-188.

 谷口真人(2015):水循環基本法と地下水、地下水学会誌、57巻1号、83-90.

 谷口真人(2011):「地下水流動―モンスーンアジアの資源と循環」、共立出版、272pp.

 日本学術会議 (2014): Future Earth ―持続可能な地球社会を目指してー、日本学術会議フューチャー・アースの推進に関する委員会, 11pp.

 Gleeson, T., Wada Y., Bierkens, M.F.P. and van Beek, L.P.H. (2012): Water balance of global aquifers revealed by groundwater footprints, Nature, 488,197–200, doi:10.1038/nature11295

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