~柿田川湧水と箱根の温泉湧出機構を探索する旅~
はじめに
地下水学会50 周年記念事業として平成21年8月22日(土)、静岡県三島市、神奈川県 箱根町において、「柿田川湧水と箱根の温泉湧出機構を探索する旅」と題した地下水の循環機構を見学する国内湧水ツアーを開催しました。参加者は委員を含め42 名でした。準備段 階では、台風や降雨、渋滞が懸念されましたが、天候に恵まれ、定刻通りに無事予定の見 学をすることができました。毎年春季講演会の開催日程に合わせて実施している湧水ツア ーが市民を対象としていたのに対して、今回のツアーは学会員及びその紹介者を対象とし ていることから、ツアーのルートについては学会員の専門技術レベルを考慮して、説明者 には現地に詳しい温地研(神奈川県温泉地学研究所)や箱根温泉供給㈱の研究者・技術者 にお願いしました。
湧水ツアーの概要
静岡県三島市では、富士山と箱根外輪山に囲まれた黄瀬川流域を涵養源とする三島湧水 群と柿田川湧水を見学して地形・地質・地下水流動の観点から湧出機構を探索すると共に、 芦ノ湖スカイラインから西側に広がる富士山山麓、愛鷹山、黄瀬川、三島溶岩流からなる 広域の地下水流動機構を学びました。
また神奈川県箱根町では、箱根火山の熱源と中央火 口丘、芦ノ湖などのカルデラに関連した地下水が造るダイナミックな温泉湧出機構、大涌 谷の噴気地帯における火山の熱源により地下水が蒸気になり噴気している状況と、その噴 気と地表水を利用し明治時代から温泉を造成している施設(温泉湧出機構を再現したよう なミニチュア)を見学しました。
見学コース
ツアーは三島駅を起点に大型バス1台で移動、途中箱根ではロープウェイを乗り継ぎ、 再びバスにて小田原駅へ向かう約8時間の行程でした。バス内では50周年記念湧水ツアー 実施に当たり丸井副会長にご挨拶を頂きました。天候は曇りがちながらも大涌谷では晴れ、 風もあり爽やかで過ごしやすい状況でした。
・コース: ①楽寿園前集合(10:00)→②三島湧水群・楽寿園小浜池、白滝公園(~11:00)→③柿田川湧水(11:15~12:00)→④箱根峠・芦ノ湖スカイライン(バス内にて昼食、「道の駅」で休憩)→⑤桃源台駅(13:45)→⑥大涌谷造温泉施設見学(14:30~16:00)→⑦早雲山駅(16:15)→⑧箱根湯本駅(17:00一部解散)→⑨小田原駅(17:45)解散
*⑤~⑦はロープウェイにて移動
おもな見学箇所
見学は、霧にて芦ノ湖スカイラインから富士山や黄瀬川の望めなかった以外は予定通り行われました。主な見学箇所での説明概要、見学状況、感想等を写真と共に示します。
■楽寿園および白滝公園の溶岩と湧水
楽寿園および白滝公園では、三島溶岩の流動経路などの形成プロセスと地下水流動との関係を長瀬委員に説明頂き、溶岩の露頭や湧水状況を見学しました。長瀬委員によると、楽寿園小浜池・白滝公園ではしばらくのあいだ渇水状況でしたが、今年は降水量が多く、見学に訪れた時には普 段と比べて珍しいほど豊富な水量で、水面や湧水の観察ができました。
■柿田川湧水公園
一日100万トンの湧水を誇る柿田川湧水の水源地では至る所噴砂のポイントが確認されました。 また、製紙工場で利用された古井戸からも湧水がみられ、透明で青味を帯びた神秘的な色を呈していました。以前はこの古井戸付近も不法投棄などで荒廃していたそうですが、NPOの活動等できれいな地下水がとりもどされ、現在の清流が確認されるようになったそうです。また、柿田川には年間を通じて鮎が生息しているとのことです。
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■道の駅「箱根峠」
箱根火山の成り立ち、芦ノ湖、外輪山を眺望しました。残念ながら霧が出て視界は良くありませんでしたが、箱根火山の形成の新たな学説など杉山元温地研研究員の説明に皆聞き入っていました。
(下見時)
■大涌谷造温泉施設
箱根温泉供給(株)のご厚意により普段立ち入ることのできない大涌谷造温泉施設を見学しました。 ヘルメット着用、2班に分かれて交互に見学を行い、見学 していない班は自然研究路などを散策し玉子茶屋などで温泉玉子を試食しました。 現地では大涌谷の歴史、温泉造成プロセス、温泉利用状況の説明がなされました。 大涌谷は明治初期ドイツ人ベルツ医師により温泉開発が進言され、地元温泉所 有者と渋沢栄一、三井家の協力により開発されました。温泉は、ボーリング孔により地下か らの蒸気を回収、この蒸気に地表水を散水して温泉水を造成している一種の人工温泉とのこ とでした。この施設は強酸の影響で金属は腐食してしまうため、木材、樹脂で構築されてい ました。硫黄も取れるそうで、土壌改良材等のニーズがあるようですが運搬費が高く利用に 至っていないとの話も伺いました。
■箱根温泉
ロープウェイの早雲山駅からJR 小田原駅までは箱根駅伝の温泉街を通り、バス内にて箱 根温泉郷の歴史、箱根温泉の水質形成機構、場所的な温泉水質の違い、温泉を維持するた めの活動などについて温地研の板寺会員の話を伺いました。箱根温泉は芦ノ湖の湖水など が浸透して箱根火山の基盤上の帯水層を東へ流れ、中央火口丘の旧火道を上昇してくるガ スや熱水がこの流れに飛び込み、さまざまな泉質の温泉が出来るとのことでした。
おわりに
の地での湧水ツアーということで、天気、渋滞など不安と緊張をもってスタートした 今回のツアーでしたが、雨や渋滞に遭うこともなく予定していた見学が時間通り順調に実施 でき、終着地の小田原駅では参加者、委員とも満足感をもって終了することができました。 ツアーの成功と準備過程の労をねぎらうため、一部参加者と委員は意気統合し、小田原市内 に繰り出したようでした。 現場説明では杉山茂夫氏(元温地研),板寺一洋氏(温地研)にご協力頂きました。また、 大涌谷造温泉施設では、見学の準備、現場案内と説明など箱根温泉供給(株)の辻内和七郎 社長をはじめ皆さまに大変お世話になりました。温地研などの研究成果を踏まえた湧水ツア -の説明資料の作成は長瀬和雄委員(元温地研所長)にご尽力頂きました。末筆ながらご協 力頂いた皆さまにお礼申し上げます。
[報告 竹田信、小澤恵理子、今井久]
スタッフ一同よりご参加いただきました皆様に心からお礼申し上げます。次回の企画をお楽しみに。