地下水調査の本

 第二次世界大戦以前の地下水調査に関する本は、酒井軍治郎著:「地下水調査法」(古今書院 1941)「参」が唯一のものです。具体的に調査手法が記載されており、内容は古くなっているものが多いが考え方は現在に通じるものがあります。
 戦後すぐの調査法の本は、農林省農業改良局研究部開拓研究所編:「農業土木のための地質調査法―簡便な電気探査機の使い方と実例」(農林省開拓研究所 1949)「参」であります。表記は地質調査法となっていますが、内容は水理地質構造を把握する電気探査の事例で、地下水を探す目的で行われています。電気探査の基本的な原理について事例を含めわかりやすく解説しています。使用されている機器は古いものですが、原理的には現在も変わっていません。昭和28年に山本荘毅著:「地下水調査法」(古今書院 1953)がやや専門性の高い本ですが新書判サイズで出版されています。この本は地下水調査のバイブル的な著書で、著者の山本先生(故人)は農林省から東京教育大教授(筑波大学)を歴任された日本を代表する地下水研究者です。この地下水調査法は版を重ねた後に絶版となり、新しく、昭和37年に出版されたのが山本荘毅著:「地下水探査法」(地球社 1962)です。サイズもA5判と少し大きくなりましたが、実務書として現場で役立つ本として多くの人に利用されました。これも改訂増補版として 山本荘毅著:改訂増補 地下水探査法(地球社 1971)が出されるように版を重ねることになりました。理科系の古書店では時々見かける本なので、入手できる場合があります。
 その後しばらくして出版されたのが、新版の山本荘毅著:「新版 地下水調査法」(古今書院 1985)です。地下水調査に関する事項が網羅された実務書となったため、さらにサイズもA4判と大きくなりかつ分厚い著作となってしまい、簡単に鞄に携帯することができなくなってしまったのが残念なところです。実務書として、同じ著者の 山本荘毅著:「揚水試験と井戸管理」(昭晃堂 1962)があります。これは、揚水試験の実務書としては唯一のもので、現場技術書においては現在も読まれている本です。絶版となっていますが、理科系の古書店で時々店頭に並んでいますので入手できることがあります。
 初心者向きの本では、高橋一・末永和幸共著:「湧泉調査の手引き」(地学団体研究会1992)があります。ポケットサイズ(B6判)の本で、湧水を主とした内容ですが図や写真が多く一般の方々が利用しやすい記述となっています。出版されて20年余となり最近は身近な水環境に関する関心も高まり、湧水だけでなく地下水全体を調べる本として、応用地質研究会著:「地下水調査のてびき」(地学団体研究会 2011)が出版されました。77pの小冊子(A6判)「参」ですが、地下水の特徴から井戸調査、湧水調査、調査結果のまとめ方まで幅広く扱っており、初めて地下水調査される方には好著となっています。
 地下水調査や観測の指針となっている本として、建設省河川局監修:「地下水調査および観測指針(案)(山海堂 1993)「案」があります。国で行う地下水調査や観測業務における指針となるもので専門的な内容ですが、地下水調査業務を行う技術者にとっては必需本となります。
 物理探査による地下水調査は、基本的には地下水そのものを調べるというより、地下牛を賦損している地層、いわゆる帯水層を調べることが多く、それらが各々の測定機器で計測される物理量によって算出され、それから地下水の存在する地層を類推するものです。
 特に帯水層調査で用いられるものは電気探査であり、これについて詳しく記載された本が、志村馨著:「電気探査法」(昭晃堂 1963)です。専門書で内容も難しいものとなっていますが。電気探査の基本を知る上では絶好の書となっています。同様な本としてやや古いものですが、山口久之助著:「電気式地下探査法」(古今書院 1952)があります。前著が出版されるまではこの本が唯一の専門書であり多くの技術者によって読まれた。同じ著者の本で、井戸掘削した孔に専用のゾンデを挿入して電気の伝わり具合を調べることで砂や粘土あるいは岩盤などの性状を捉え、その結果からどの層から地下水を取水するか判断する時の参考となる本として、山口久之助著:「鑿井の電気検層法」(昭晃堂 1963)があります。基本原理から解析方法までを記載した専門的な本ですが、井戸掘削をする技術者にとっては一読する価値のある本です。このほかに放射能を利用して地下水を調べる放射能探査の本としてよく読まれたのが、落合敏郎著:放射能式地下水探査法(昭晃堂 1965)「参」です。やや内容は古くなっていますが基本的なことを学ぶことができます。同じ著者による最新の本として、落合敏郎著:「地下水・温泉の放射能探査法」(リーベル出版 1996)があります。一時期温泉ブームとなった頃によく利用された放射能探査について具体的な事例を踏まえ記載されています。
 上記の他に、地温を測定して地下水の水脈(みずみち)を調べる方法について解説した本が、竹内篤雄著:「地すべり 地温測定による地下水調査法」(吉井書店 1983)です。特に地すべりの機構解析や対策工法検討において重要となる地下水の流れを捉えるための手法が詳述されています。ただ残念なことに書店閉鎖により現在は絶版となっています。同著者による前著を踏まえ、その後の調査等を加筆し統括した本として、竹内篤雄著:「温度測定による流動地下水調査法」(古今書院 1991)があります。最近では、前述の「地すべり 地温測定による地下水調査法」を基にして全面改訂した「地下水調査法 1m深 地温探査」(古今書院 2013)が出版されています。また、斜面全般の調査のための物理探査については、伊藤ほか編:「斜面調査のための物理探査(吉井書店 1998)が詳しく、この中には前記の地温による地下水調査などの例も掲載されています。
 それらを一般的にわかりやすい内容としたものが、竹内ほか著:「温度を測って地下水を診断する」(古今書院 2001)です。初めての方はこの本から読まれるとよいと思います。
 このほかに、富山の黒部川扇状地をフィールドとして放射性同位体を使用し地下水の起源や流れを調査し、コンピューターを使用した解析結果などをまとめた本として、榧根勇編著:「実例による新しい地下水調査法」(山海堂 1991)があります。那須野のフィールドとして当該地区の地下水を把握するため電気探査を中心に帯水層を含めた地下構造を解析し取りまとめた本として、提橋登著:「那須野の地下水探査記録」(住宅新報社1976)があります。このような各地の地下水の詳細なものは、当該地域の現地調査をする上で非常に参考となります。
 建設工事に伴う地下水の問題を扱った本として、高橋賢之助著:「根切りのための地下水調査法」(1981)があります。この本では、地下掘削した時に湧出する地下水についての調査方法が実例を踏まえて記載されています。この本はやや古くその後の実例を含めた新版として、高橋賢之助著:「掘削のための地下水調査法」(山海堂 1990)が出版されています。また、トンネル掘削に伴う湧水については、かなり古い本となりますが、高橋彦治著:「湧水と地圧」(山海堂 1963)があります。著者は国鉄(現在JR)の研究所で鉄道トンネル掘削による湧水について調査研究をされた方で、この本では実務内容が多く掲載されており、多くの実務者に読まれた本です。トンネル湧水に携わることがあれば一読されることをお勧めいたします。
 上記の他には、日本地下水学会の創立50周年を記念した出版で、日本地下水学会編:「地下水のトレーサー試験」があります。この本は、地下水の流れをトレーサー(液体などの流れを追跡する物質(追跡子))を用いて調べる試験方法について解説した専門書で、研究者や技術者などが実測した事例が掲載され、実務を行う技術者にとって役立つ本となっています。

 地下水の研究は、地理学の分野でも多く行われており、特に自然地理学では、地形学、気候学と並んで水文学が大きな柱となっています。その水文学の中に陸水の研究として河川水や湖沼水と共に地下水についても多くの研究がされています。そのため、自然地理学に関する本には、地下水調査についての項目があり、そこには測水調査や水質調査などの地下水に関する調査手法が掲載されています。
 古いものでは、三野与吉編;「自然地理学研究法」(朝倉書店 1959)に「地下水の調査法p.178-192(榧根勇著)」があります。同様なものとして、三野与吉編:「自然地理調査法」(朝倉書店1968)に「地下水の調査法p178-192(榧根勇著)」があります。ポケット版のものとしては、三野与吉編:「自然地理の調べ方」(古今書院 1952)や自然地理学調査法(町田貞編 古今書院 1970)があり、コンパクトに記述がされています。教科書的な本としては、尾留川正平・市川正巳・吉野正敏・山本正三・正井泰夫・奥野隆史編:「現代地理調査法 Ⅱ巻 自然地理調査法」(朝倉書店 1973)があります。