地下水に関する本は、理学系だけではなく工学系でも多くの出版がされています。特に土木工事に伴うものや斜面災害(地すべりや崩壊)などに関係する書籍で多く取り扱われています。 古いものでは、君島八郎著:地下水(丸善 1919)があります。改版が1934に出版されています。これは河海工学第二編として土木工学の立場で記載がされているもので、この点で出版された本としては最も古い本の1つです。土と地下水、浸透や坑内湧水、土質・水質試験などの章もあります。
その後は、工学系の水理学や水文学などの中に地下水としての記述があるものはありますが、地下水が表題となる工学書は多く出版されませんでした。
地下水の水理に関する本として、現在も珍重されているもので、クリメントフほか著 外尾ほか訳:地下水の力学(ラテイス 1967)があります。地下水の水理計算における色々場合の数式が掲載されています。井戸工学する本は非常に少なく、唯一よく利用されているのが、福川豊著:実用深井戸工学(府刊行物サービスセンター 1969)です。井戸理論から揚水に関する工学的な記載がされています。井戸の揚水試験などによる地下水の水理解析法には様々な数式がありますが、それらについてまとめられたのが、酒井軍治郎著:地下水の水理解析法(地下水技術センター 1980)です。
工学系の地下水に関する入門書としては、地下水入門編集委員会編:地下水入門(土質工学会 1983)があります。建設工事に関する地下水問題について、分かりやすい解説がされています。その後、新しい分野で開発された事項を踏まえて2008年に 地下水を知る編集委員会編:地下水を知る(地盤工学会 2008)が発刊されました。地盤環境や地盤災害、地下工事が地下水から受ける影響や地下水に与える影響、地下構造物が地下水から受ける影響、地下貯蔵と地中処分などの最新の内容となっており、是非学生や若い技術者に読んで頂きたい書です。実務書で初心者向きの本は、もう1冊あります。それは、山本荘毅監修:建築実務に役立つ地下水の話 (建築技術 1994)です。基本的な地下水の解説から、水理解析まで分かりやすく解説がされており、地下水を理解する上で好著となっています。 大学の地下水工学の教科書としては、河野伊一郎著:地下水工学(鹿島出版会 1989)があります。基礎から応用までをコンパクトに解説した内容となっています。
建設工事に関する地下水対策工法として地下水位低下工法がありますが、それについて記載されているのが、松尾新一郎・河野伊一郎著:地下水位低下工法 (鹿島出版会 1970)です。地下水理に関する基本事項が記述され、実務書として長く使用されている本で1979年に改訂増補されたものが出版されています。同様に地下水対策の実務書として、藤原紀夫・山下幸夫著:わかりやすい土木技術 地下水処理工法(鹿島出版会 1981)があります。根切り工事に関する本は、地下水調査の本ところで紹介した高橋賢之助著:「根切りのための地下水調査法」(1981)及びその新版の高橋賢之助著:「掘削のための地下水調査法」(山海堂 1990)の他に、地盤工学会編:根切り工事と地下水 調査・設計から施工まで (地盤工学会 1991)があります。調査段階から設計施工までが詳しく解説された実務書となっています。
地下水解析に関する本としては、P.S.フヤコーン・G.S.ビンダー著 赤井浩一訳監修:地下水解析の基礎と応用(上巻)基礎編 (現代工業社 1987):地下水解析の基礎と応用(下巻)応用編 (現代工業社1987)がある。かなり専門的な内容となっているが、地下水解析を行う上では重要な内容が記載されています。 地下解析を行う上で重要となる地下水モデルについての本は、Mary P.Anderson, William W.Woessner 著 藤縄克久監訳:地下水モデル(共立出版 1994)がある。また、地下水の水理については、佐藤邦明・岩佐義郎編:地下水理学(丸善 2002)がある。
この本は、地下水の力学的挙動を、水文循環、地下水調査・地下水管理などに関する総合的にまとめたもので学生の教科書として広く用いられています。
最近話題となっている地下す環境に関する本としては、西垣誠監修:地下構造物と地下水環境(理工図書 2002)があり、特に、地下水の流動保全の現状と種々の保全工法の設計法などが記載されている。岡山地下水研究会著:実務者のための地下水環境モデリング (技報堂出版 2003)には、地下水問題に対するモデルの適用に関してのもので、モデルの出来が解析結果から将来予測やリスク評価に大きく影響することを踏まえて解説しています。ライナー ヘルミック著 平田健正・樫山 和男訳:地下水環境での多相流と輸送現象 (シュプリガー・フェアラーグ 2004)があります。現象面の理解とその基礎からモデルによる数値解析までを解説した専門書です。
地下水環境に関わる様々な問題について新たに詳しく解説したものが、藤縄克之著:環境地下水学(共立出版 2010)です。地下水学に関する日本の著者による教科書が無い中、この本は地下水の基本から、応用、特に土壌・地下水汚染に関する対策や地下水流動解析・物質や熱移動などについても詳しい内容の本となっています。