地下水汚染関係の本は、1990年代より多く出版されるようになってきましたので、ここでは1990年以降発行された本を紹介いたします。 地下水汚染の中で注目されているものに硝酸性窒素によるものがあります。各務原地下水汚染研究会編:各務原台地の地下水汚染(日刊工業新聞社 1990)は、岐阜県各務原市(かかみがはらし)におけるにんじん栽培の伴う施肥による地下水汚染の原因究明と将来予測について専門的な立場で書かれた調査報告書で、平成元年度環境賞を受賞しています。この本を一般的にわかりやすくしたものとして、各務原地下水研究会著:よみがえる地下水 各務原市の闘い(京都自然史研究所1994)があります。ローカルな内容となっていますが図表や写真も多く地下水汚染に初めて携わる人にも参考となる本です。ただし、これらの本は、絶版となっており、古書店等での入手となります。 地下水汚染の一般的な内容について手軽に読めるものとして、地学ワンポイントシリーズの1冊として藤縄克之著:汚染される地下水(共立出版 1990)があります。地下水汚染の中心となっている有機塩素系溶剤による地下水汚染、地下水の基本事項、汚染物質の移動、地下水の利用と保全などについてコンパクトにまとまられている好著です。
専門的な立場から地下水汚染の基礎から応用まで学びたい人には、地下水問題研究会編:地下水汚染論 その基礎と応用(共立出版 1991)がやや古いですがおススメです。地下水問題研究会の定例発表会の内容を加筆訂正して取りまとめたものですが、当時の最新の研究内容がわかりやすく解説されています。地下水汚染の発生する背景、地下水汚染機構、地下水汚染調査、地下水汚染の解析法、地下水汚染の事例研究(4ケース)など実務技術者に有用な内容になっています。 昭和56-57年にかけて自治体の水道水源用井戸から多くのトリクロロエチレン等の有機塩素系溶剤が検出され、環境庁では地下水汚染の実態調査を実施し、全国的に汚染が広がっていることがわかり、このような地下水汚染の実態把握調査、汚染物質取扱状況調査、汚染原因解明調査を実施するにあたっての手法を手引きにしたのが、環境庁水質保全局監修:地下水汚染調査の手引き(公害研究対策センター 1992)です。54p小冊子ではありますが基本的な調査には有用な内容が簡潔にまとめられています。
廃棄物の処分に関しては地盤や地下水のついての知識が重要であり、それらについて専門的な立場から書かれた本が、Yongほか著:福江ほか訳地盤と地下水汚染の原理(東海大学出版会 1995)です、カナダやアメリカの大学教授が執筆した本で難解な内容となってる部分もありますが、地盤を扱う研究者や技術者にとって必要となる内容です。廃棄物と汚染物質、汚染物質と土の相互作用、土の透水性、吸着と拡散、汚染物質の輸送モデルなどについて詳述されています。
海外の汚染状況を知る本としては、副題にヨーロッパに見る汚染対策と記されている 藤縄克之監修 欧州土壌・地下水汚染視察団編:地下水問題とその解決策(環境新聞社 1998)があります。環境問題の先進地である北欧からフィンランド、東欧からハンガリー、西欧からドイツにおける土壌・地下水汚染に対する社会制度、浄化技術、研究体制などの現状視察した内容と我が国における地下水の保全と社会システムについて解説されています。
技術者に参考となる土壌・地下水汚染関係の本としては、重金属による汚染メカニズムについて分かりやすく解説したものとして畑明郎著:土壌・地下水汚染 広がる重金属汚染(有斐閣選書 2001)があり、土壌・地下水汚染の概要をまず知ることができる本です。同じ著者には、畑明郎著:拡大する土壌・地下水汚染 土壌汚染対策法と汚染の現実(世界思想社 2004)もあり、土壌汚染対策法の課題やアジアの地下水汚染などについても解説しています。専門的なものとしては、神野健二編著 籾井和朗・藤野和徳・中川啓・細川土佐男・江種伸之・広城吉成共著「地下水中の物質輸送数値解析」(九州大学出版会 2001)があり、帯水層中の物質輸送解析に関する研究をまとめたもので、環境汚染物質の地下水中の移行過程の予測などに取り組む研究者や技術者にとっては参考となる書です。実務書としては、土壌・地下水汚染の調査・予測・対策編集委員会編:土壌・地下水汚染の調査・予測・対策(地盤工学会 2002)があります。土壌・地下水汚染について基準などが確立されていない段階で出版されたものですが、土壌・地下水汚染の調査法、挙動の予測法、汚染の挙動予測のための物性と評価方法、対策技術などについて記述がされています。特に予測について種々の数値解析法の解説がされています。この本は、その後平成15年に施行された土壌汚染対策法を踏まえた新知見を踏まえ、続 土壌・地下水汚染の調査・予測・対策同編集委員会編:続 土壌・地下水汚染の調査・予測・対策(地盤工学会 2008)として出版されています。地盤工学会からはこの他に地下水流動保全に関する本として、地盤工学会編:地下水流動保全のための環境影響評価と対策(地盤工学会 2004)も出版されています。実務書としてはこの他に全国地質調査業協会連合会からも土壌汚染対策法踏まえた、全国地質調査業協会連合会編:土壌・地下水汚染のための地質調査実務の知識 (オーム社 2004)があります。この本は、「地質調査技士」の土壌・地下水汚染部門の認定講習会テキストとして作成されたもので、現地作業での取り組み方を中心として記述されています。内容は、土壌地下水汚染問題の歴史と現状、関係法規、汚染物質に関する基礎知識、作業の安全確保と周辺環境への安全配慮、調査の進め方、調査技術、修復工事の基礎知識について記されています。
砒素汚染については、谷正和著:村の暮らしと砒素汚染 バングラディッシュの農村から(九州大学出版会 2005)がKUARO叢書の1冊(新書判)として出版されています。ガンジス川流域の農村地帯に広がる地下水汚染について環境人類学の目で農村社会の仕組みと砒素汚染対策などについて記されています。
その他に、Suresh D. Pillai編集、 金子 光美翻訳:地下水の微生物汚染(技報堂出版 2000)がある。地下水中の病原微生物の専門書で、水文地質学的原理、地下水採取手段、病原 体検出方法、分離細菌の遺伝子的同定法などについて解説されています。
日本地下水学会においても、日本地下水学会編:地下水・土壌汚染の基礎から応用(理工図書 2006)が出版され、土壌・地下水汚染の基礎から応用までを地下水を中心に解説がされています。初心者向けには、地盤工学会の入門シリーズとして、地盤工学会編:はじめて学ぶ土壌・地下水汚染(地盤工学会 2010)があります。基礎的な事柄から解説があり、理解を深めるには適した内容となっています。